12月12日(月) 石澤靖治教授 「大震災と海外」

石澤靖治先生は、日本と海外メディアによる東日本大震災の報道を通して、以下の3点についてご講義された:

 

①12:1の世界と日本人論

②大震災での日本報道の3つのパターン(賞賛、批判、誤解と誇張)

③もう1つの海外メディアの報道

 

1.12:1の世界と日本人論

石澤先生は、1993年にNHK放送文化研究所が行った調査により、日本のアメリカ関連の報道が、アメリカの日本関連報道の12倍に上る事実が明らかになったことを紹介された。また、先生の編著『日本はどう報じられているか』(新潮新書、2004年)が思いのほか好調に売れたことやCOURRiER Japon(日本が海外のことをどう報道しているかを扱う雑誌)等がある背景には、日本人が海外からどうみられているかについてかなり敏感であることが挙げられる、と説明された。

 

また、先生は、日本のメディアが、大きな出来事があった場合、海外メディアの反応をしばしば報道することも挙げ、これは、日本人が日本社会の価値観に懐疑的であること、つまり、常に「自分探し」を続けている状態であるとも解釈できると、解説された。

(以下に示す事例も、日本のメディアがすでに記事の紹介したものである)

 

2.大震災での日本報道の3つのパターン

石澤先生は、大震災時に時間の経過とともにあらわれる3つのパターンを提示された。

 

1) 震災に対する日本人への賞賛(震災直後)

震災直後の報道に共通するのは、日本人精神性に対する賞賛であり、色々な形で文化論が展開された。以下、先生が紹介された報道の一部である:

The New York Times (March 11, 2011) by Kristof

"Sympathy for Japan, and Admiration" (市民の共通の利益のために『ガマン』する精神は日本の最も良い点。アメリカ人も見習うべし)

http://kristof.blogs.nytimes.com/2011/03/11/sympathy-for-japan-and-admiration/

The New York Times (Mardh 29, 2011) by Fackler

「日本人のエトスである『ガマン』の精神に忠実に日本人は快活なまでの冷静さを保っている。」

National Public Radio

「人々は驚くほど耐え抜いている。日本人は『ガマン』という概念を体現している。」

The Washington Post (March 16, 2011) (Chico Harlan)

「第二次世界大戦後最大の危機を、日本は礼儀正しさで対処し、秩序をもって混乱と戦っている。」

「避難所でのゴミも分別。」

「略奪や犯罪も起きていない。」

The Northern Light (March 29, 2011) (アラスカの学生新聞)

「日本人は賞賛に値するまでふるまっている。カトリーナの時と違って、略奪も暴動もパニックもない。」

The New York Times (March 11, 2011) by Glanz and N. Onishi

「日本の厳格な建築基準が命を救った。」

 

メディアで使われた賞賛の表現

stoicism       冷静さ

discipline    自制心

selflessness   無私無欲

dignity      尊厳

grace       礼節

 

そして、日本の精神構造の「ガマン」や「しかたがない」をどのように表現するかなどもしばしばメディアで議論された。

 

「ガマン」についての報道:

toughing it out (New York Times)

patience, endurance, perseveranceが合わさったもの

endure, tolerate (The Christian Science Monitor)

 

「しかたがない」についての報道:

it can't be helped.

what can you do?

it's beyond our control.

it's out of my hands.

There's nothing you can do.

 

2) 原発報道での日本政府への非難

2つめのパターンとして、石澤先生は、海外のメディアによる日本政府に対する非難報道を紹介された。たとえば、New York Times (March 20, 2011)などは、"The Japan Could Teach Us a Thing or Two"と題し(http://www.nytimes.com/2011/03/20/opinion/20kristof.html?_r=1)、弱いリーダーシップと強力な社会的結束はコインの表裏であると説明。さらに、「民衆を団結させている同じ力が、強力なリーダーシップに対して懐疑的にさせている」とも伝えた。

 

3) 誤報と誇張

時間の経過とともに3つ目のパターンがあらわれるが、それが誤報や誇張である。大きな出来事があると、多くのメディアが殺到するが、彼らはよりひどい情報をみつけ、自分たちの報道に付加価値をつけようとする。これが3つ目のパターンであり、いわば報道のエスカレートが起こる。メディア同士の競争は、事実確認をしないまま、報道することにつながる。先生はこれをジャーナリズムの無責任性であり、こういった報道は、とくに自分の国のことでないと容易に起きることであると、説明された。

 

先生は、例として、以下の誤報を紹介された:

○イギリスのタブロイド紙(320日)

「福島で放射性物質(放射能)の影響で5人が亡くなった」

○アメリカのオンライン紙(331日)

「日本は海外の支援を受け入れず、真実を隠すために海外の専門家を拒絶している」

○アメリカの地方紙(315日)

3つのキノコ雲に、、「キノコ雲」、「ナガサキ」、「フクシマ」とかいた風刺がを掲載

(出典:産経新聞 2011420日)

 

こういった誤報、誇張はメディアでは海外メディアでは当たり前のことである。日本のメディア(新聞)はそれに比べると比較的「おとなしく」「まじめ」であると、石澤先生は、説明された。

 

先生は、今回の震災報道は各国メディアの日本専門記者、日本専門家によってなされるが、それらはしばしば彼らの固定化した日本観に基づいていることも指摘された。そういった意味では、日本に関わる報道に一喜一憂する必要は必ずしもないのである。

 

3.もう1つの海外メディアの報道

次に石澤先生は、以上とは別に海外メディアの評価できる側面を話された。たとえば、New York Times316日に、"US Calls Radiation "Extremely High;" Sees Japan Nuclear Crisis Worsening" という記事(http://www.nytimes.com/2011/03/17/world/asia/17nuclear.html?pagewanted=all)を掲載し、原発周辺では、放射線レベルが作業を困難にするほど上昇しているのではという専門家の分析を紹介した。そのほか、福島原発の問題に関しては、ヘリコプターでの放水の無意味さの指摘、「制御可能」とする認識が厳しいこと、露出された使用済み燃料は50年にわたって生命に危険をおよぼすレベルの放射能を出し続ける、等の警告をいち早く報道している。

 

先生は、メディアは、「こうみたら別の見方がある」というのを伝えるのがその使命であるが、日本のメディアは一つの視点から大量に情報を流すものの、複眼的な見方という点では不十分でその使命を果たしてきていないということを話された。しかしながら、自国の非常事態に対する報道に関しては慎重にならざろうえない面もあることも指摘された。

 

東日本大震災後の報道に関して、315日前後から、海外のメディアは、「日本政府の発表より事態は深刻である」ということを積極的に報道し始めた。日本のメディアはその報道を紹介、つまり、海外のメディアを使って日本の状況の深刻さを説明した。これは、日本メディアの典型的な対応である。こういった対応は1995年の阪神淡路大震災の時と同じであるが、石澤先生は、なぜ、海外の口を借りて自分たちの良しあしを評価するのか、このような外国の口を借りての非難は、脱却しなければならないと、聴講者に問題提起をされた。

 

最後に先生は、国家とメディアの関係について解説された。

 

国家とメディア:メディア側から

・日本のメディアの特性:伝達性、保守性

・アメリカメディアの特性:批判性、攻撃性

・震災(有事)における日本メディアの姿勢:ある程度統制を受け入れる、通信社的

 

国家とメディア:国家論から

日本のメディアは体制を変革するよりも、一般的にはどちらかというと擁護する傾向がある。このような中で変革を行う際には、海外メディアからの外圧が火付け役となり、またそれを利用して日本の指導者は政治的コストを軽減させようとしてきた。

 

まとめとして、先生は、阪神淡路大震災と東日本大震災の報道には、変化もあれば、変わらない部分もあると解説された。日本は今、海外メディアの報道パターンについて再認識しつつ、自らの価値観や政策に基づいた日本のメディアの報道力強化が必要である。海外メディアの報道を有効活用しながら、国際PRの重要性を認識することについて、十分に議論する必要があり、ぜひ、受講生の皆に考えてほしいというメッセージを伝えられ、授業を終えられた。

 

(参考・引用した資料や文献は、講義の際に提示された)

 

 


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