9月26日(月) 畠山圭一教授 「非常事態と国家―国際政治の観点から見た東日本大震災の教訓」

 

畠山圭一先生は「今回の大震災は未曽有でもなければ想定できないものでもなかった」と述べた上で、今の日本の国家指導者が自ら定めた「想定の範囲内」でしか思考できない、という「戦略的思考」の著しい欠如に陥っているのではないかと指摘。「非常時のルール」を設定してこなかった戦後日本の政治的欠陥について国際政治と安全保障の観点から分析された。

 

(講義概要)

「東日本大震災」の犠牲者は約2万人に及び、東北・関東の太平洋沿岸地域は壊滅的状況に陥り、多くの自治体は行政機能を喪失した。産業界への打撃も広範かつ甚大でそれは日本全国に及んだ。更に、震災は大量の放射性物質を放出させる深刻な原発事故を引き起こし、周辺住民の大量避難、関東・東北全域の深刻な電力不足をもたらし、わが国のエネルギー政策に深刻な見直しを迫ることとなった。


日本の危機はそれだけでは終わらなかった。このとき、わが国は、国際政治上・安全保障上の危機すなわち「国家存亡の危機」にも直面しており、図らずも、今回の震災にあたって示された日本国民の姿や日米の絆が、かろうじて日本を国家存亡の危機から救う「抑止力」となっていたのである。

今回の震災に直面して日本人が取り乱すことなく助け合い、秩序ある行動を示したこと。自衛隊が万単位の大部隊を短時間で被災地に投入し、見事な統合運用によって救助救援活動を行ったこと。放射能漏れを起こした福島原発事故に対して自らの危険を顧みず自衛官や消防隊員のみならず民間人までもが職務を全うしようとする姿。加えて、米軍が「トモダチ作戦」と呼ぶ大規模救援活動を展開したこと。

 

それらの行動・活動のいずれもが、かろうじて日本国家を国際政治・安全保障上の危機からも救ったという事実は改めて強調されるべきであろう。

 

今回の震災で浮かび上がった事実と国際政治・安全保障の観点からの教訓と課題は次の5点である。

 

①非常事態は「国家」なしに有効対処できない―自衛隊の大規模投入や全国の消防・警察・海保による救難支援も、電力供給や通信や物流の回復も、国家が機能しなければできなかった。特に自治体の機能が麻痺し交通インフラが途絶した地域に直ちに向かえたのは唯一自衛隊だけで、危機に際して国家が果たす役割、その国家的任務遂行のために自衛隊が果たす役割を印象付けることとなった。 

②深刻だった日本の安全保障―この時期、東日本大震災や原発事故以外にも、日本は九州、北陸、中部といった他の地域で大規模自然災害に見舞われており、また中国及びロシアによる日本周辺領域への侵犯行為や威嚇行為といった国防上の脅威にさらされていた。もし、この間に、大規模テロなどの破壊活動が行われたり、周辺諸国による戦闘攻撃などが起こったりしたならば、日本の安全保障・危機管理は最悪の事態に陥りかねない状況にあった。


③「危機管理」を忘れていた国家指導者―巨大地震と大津波は決して「未曾有」「想定外」の事態ではなかった。そこには日本国民全体の大きな油断があった。こうした国民の油断した精神状況を改善し解決するのは政治の役割であり、国民が「ほとんど来ない」と思っても「最悪の事態」を想定し、必要な備えを怠らないことが国家指導者の第一条件である。


④「原発」論議に見る戦略論の不在―「原発は危ない」「やめるべきだ」というが、増え続ける周辺国の原発が一つでも事故を起こせば、今回よりも深刻な被害を日本にも及ぼすことになる。また、原子力に代わるエネルギーを国際市場で確保することはほとんど不可能であり、エネルギー源確保のためには国家の安全保障を差し出すような取引を強いられかねない。特に、国際社会は、資源エネルギーと軍事バランスによって各国がしのぎを削る多極時代に突入しており、国力が低下すれば、厳しくなる国際環境の中で様々な面で他国の風下に立たざるをえなくなる。


⑤求められる国家エリートのモラルと戦略能力―今回の国難に際して見られた日本人のモラルは素晴らしいが、国家や政治を立て直すにはリーダーの姿勢を改める必要がある。中でも最も重要な点は「想定外」の事故や事態が起こりうることから目をそむけず、最悪の事態に対処する方法を真剣に検討し、最悪の事態に対処できる「非常時のルール」を定めることではないか。そこに課題の本質がある。

 

  

(学生の感想より)

私がようやく(大震災で被災した)実家に帰省出来たのは地震から約3週間後ぐらいでした。…事態は私が想像していたよりも深刻でした。…先生の講義の中でもあったように、「この震災で国際政治上、安全保障上の危機に直面していた事実があったにも関わらず、今回の震災にあたって示された日本国民の姿や日米の絆が日本を国家存亡の危機から救う「抑止力」となっていた事実がある。」と言うのは本当に私も強く身に染みて感じています。被災地での自衛隊の人々の働き、同じく被災した自衛隊の方もまたそこにいたけれど、その人や自衛隊の温かい声掛けや、対応に感謝をしている人はたくさんいます。

 

…地震について、そして今後の地震に備えて自分自身がどのように生活し考えて準備をしていくべきかを考えさせられる講義だったと思います。先生は、この地震、そして津波が「想定内」だったとおっしゃいました。歴史を、過去を振り返ることでこれから未来を読み取っていくこと。自分の人生の中で10年先、30年先を明確に見通すことはそう簡単ではないかもしれません。でも、この地震、そして先生の講義を聞いて、それは非常に大切なことなのだと思いました。最悪の事態に対処できる「非常時のルール」を自分の中にも定めておこうと思います。

 

 


 


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