11月16日(水)櫻井大三准教授「国際法からみた福島第一原子力発電所の事故」

 

櫻井大三先生は、日本の放射能を含む汚染水の海洋への放出行為が、国際法からみてどのように評価されるのかについて、以下の2つの問題意識に焦点を当てながら、講義で考えてゆくことを、説明された:

 

①汚染水の海洋への放出は国際法上許されるのか? 

②関係諸国等への通報は国際法上適切になされたのか?

 

これらの問いを考えるにあたって、櫻井先生は、汚染水放出をめぐる事実関係を、その背景および日本政府(外務省)による諸外国への説明の2点に分けて、説明された。

 

(1) 汚染水放出の背景 (授業配布資料より)

2号機のタービン建屋地下や坑道に高濃度の放射能汚染水がたまり、取水口付近のコンクリートの亀裂から漏出していることを42日に確認(推計4700兆ベクレル=国の基準で定められた年間放出量の約2万倍に相当)。

・高濃度汚染水の収容先を確保するため、東京電力は44日から10日にかけて、敷地内の施設で貯水されていた低濃度汚染水計11000トン(推計15001700億ベクレル=2号機の高濃度汚染水10リットル程度に相当)を意図的に放出。

 

(2) 日本政府(外務省)による諸外国への説明 (授業配布資料より)

44日午後3時半: 東電が放出計画を発表、直ちに外務省へ伝達。

・同 4時: 各国の大使館向け定例説明会で汚染水放出の方針説明(51カ国が参加、中国、韓国、ロシアは欠席。午後6時頃終了)。

・その後、東電からの追加情報を受け、外務省は、説明会の内容を報告する文書に「…低濃度放射能汚染水の放出は、今晩始まる予定です」と記載。

・同 午後73分: 汚染水の放出開始。

・同 午後75分: 在京の149カ国の全大使館とEU、そして35の国際機関にファクスやメールを一斉送信。

 

次に、先生は、韓国、ロシア、北朝鮮、中国、そして国際環境NGOの、汚染水の海への排出および日本政府の通報義務についての反応を紹介された。そして、当時の外務大臣であった松本剛明氏の記者会見映像を映し、日本の対応についてその妥当性についてコメントされた。

 

(3) 国際法上の論点の検討 (授業配布資料より)  

次に、櫻井先生は、国際法上の論点として、ご講義の問題意識1点目である「汚染水放出行為の法的評価」について話された。地震・津波により生じた事故に起因する原発施設からの汚染水放出を直接に規律する条約(放射性物質の海洋への放出をもっぱら禁止する条約)は存在しない。そのような中、汚染水の放出行為の規律に一定の関連性を有する条約の解釈論を問題にするため、先生は2つの条約を挙げられた。1つ目は、海洋投棄に関するロンドン条約(1972年)、および、同議定書(1996年)である。おおかたの結論としては、放射能汚染水は、議定書の「附属書Ⅰ」(許可制の下で規制に従って海洋に投棄できるものを限定列挙、それ以外のものの海洋への投棄を原則禁止)に記載ないこと、そして、海上から廃棄物等を故意に処分したのではなく、今回の放出は陸上の原子力施設からのものであることから、日本の放出行為の違法性を考慮するには、当条約の限界がある、ということである。ロンドン条約は、そもそも原発事故を原因とした放射汚染水の放出を想定していない。

 

次に、先生は、国連海洋法条約(1982年)を挙げられた。当条約にある「陸上起因の海洋汚染の防止に関する一般的義務」「「公海自由の原則」に対する他国利益への妥当な考慮の要請」「越境環境損害の防止義務」の観点からは、日本には相当の注意義務を尽くすことが問われること、そして、将来の海洋汚染の状態によっては、条約違反を問われうる場合も皆無ではないことを、指摘された。

 

続いて、櫻井先生は、やはり2つの条約を挙げながら、講義の2つ目の問題意識「通報の法的評価」について説明された。1つ目の原子力事故早期通報条約(1986年)には、義務的通報(第2条)と自発的通報(第3条)の項目がある。この項目に関して、日本は、通報はしたものの、条約の適用を誤ったともみられる対応があった。2つ目は、国連海洋法条約(1982年)にある「緊急時の潜在的被害国への通報義務(第198条)」について、「コルフ海峡事件」ICJ本案判決、1948年、イギリスの軍艦がアルバニアの領海を航行中に機雷に触雷し被害を被ったのは、アルバニアが領海内の危険を事前に通報しなかったからだとして提訴された事案)や「MOXプラント工場事件」ITLOS暫定措置命令(2001年)、「ジョホール海峡埋立事件」ICJ判決(2003年)に触れながら、通報義務は、今日では慣習国際法上の義務となっていることを説明された。

 

最後に、櫻井先生は、「信義誠実の原則に基づく事前の通報義務とその履行状況」について、外務省、外務官僚の対応が、外交の常識に適ったものであったか、特に、信義誠実という観点からみて問題がなかったかについては検討の余地があるという考えを示された。

 

そして、国際法について以下のポイントをまとめられて、授業を終えられた(授業配布資料より):

 

・なぜ諸国は国際法を守るのか? → 相互主義の原則(the principle of reciprocity; le principe de réciprocité)が機能しているから。

・では、相互主義の妥当根拠は? → どの国にも、相手の国が国際法をしっかりと守ってくれるだろうという期待・信頼がある(各国が国際法の履行・遵守について有する信義誠実)。

・「正当な期待legitimate expectation; confiance légitime」は法的保護の対象となりうる。

・「正当な期待」の毀損はフェア・プレイ精神にもとる(「違法行為illegal acts/「不法行為wrongful acts」のレッテルが貼られる。→ 信頼保護の原則 Vertrauensschutz-prinzip)。

 

将来、本件汚染水放出に起因する第3者損害が他国あるいは他国民において生じたことが明らかとなった場合は、賠償を含めた適切な対応を文字どおり誠実に行うことが「国際法の優等生」としての名誉を回復する最善の途である。

 

 

 

 


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